2018年09月15日

モデルガンのブロゥバックパワー その⑤

 モデルガンのブロゥバックパワーの話を続けます。今回が最終回です。

 モデルガンのブロゥバックでは、カートリッジによってブロゥバックパワーに差が出ます。それはモデルガンファンであれば誰でも知っています。
 CPカートリッジが生み出すパワーは大きく、傑作のひとつです。発火音も大きく、その点でも優れています。

 では、なぜ、大きなパワーを発揮できるのか? です。
 これは難しい問題です。いろいろな要因が考えられるからです。
 要因の一つ目として、「CPカートリッジはガス漏れがほとんど無く、PFカートリッジはガス漏れがあるからパワー差がある」という説が40年前からモデルガンファンの間での「常識」ですが、それが間違いであることは、これまでに書いてきたとおりです。
 
 そうそう。「ガス漏れ」で思い出しました。
 MGCが開発したCPカートリッジですが、最初は、その名称の通り、ガスシールドにキャップを使っていました。カートリッジ内にキャップ火薬の撃ちガラを入れて使い、それをガスシールドとして使い、ブロゥバックさせていました。
 その後、「HWモデル用」として、ゴム製のOリングを使用するようになり、やがて、そっちがスタンダードになりました。
 ゴム製Oリングを使ったカートリッジの方がブロゥバックパワーが大きく、HWの重いスライドもガンガン動かします。

 で、「ガス漏れによるパワーダウン説」を支持するガンファンは、
 「やっぱり、ガス漏れがあるからパワーダウンするし、ガス漏れが無くなるとパワーはアップするじゃないか。お前の説は間違っている! バカだ!! シネシネ!!!!」
 という声が聞こえて来ました。届きました。

 フムフム。そういう意見もあるな。

 ですが、やはり、ガス漏れはパワーダウンとは直接は関係ありません。
 というのも、HW用カートリッジですが、パワーアップしている要因はガス漏れが無くなった(減った)からではないからです。
 HW用カートリッジのパワーアップは、キャップ火薬の発火・燃焼時のガスが広がる空間が小さくなり、結果的に総ブロゥバックパワーがアップしたことによります。ボイル・シャルルの法則から、簡単に計算で求められます。(計算上、15%アップとなります)

 もう少し、詳しく書きます。
 カートリッジ内の圧力は、ガスが広がる空間の容積に反比例します。HW用カートリッジはキャップ火薬の撃ちガラを使わないため、容積が小さくなっています。また、キャップ火薬を叩くFピン(カートリッジ内に入れるFピン)が太くなっています。そのため、さらに容積は小さくなります。
 結果、キャップ火薬が発火した瞬間の初期圧力は、ノーマルカートリッジに対し、HW用では2倍から3倍まで高まります。
 そのことがブロゥバックパワーを上げる最大の要因です。ガス漏れは関係ありません。無視できます。


 話を戻します。
 では、CPカートリッジは、どーしてパワーが大きいのか? です。
 いろいろ調べましたが、なかなか原因が掴めませんでした。
 ブロゥバックパワーは、ガスの発生量、カートリッジ内の容量(ストローク)、温度の3つが分かれば計算できます。それらを何度測定しても、計算しても、PFカートリッジとCPカートリッジとで大きな差は見られませんでした。CPカートリッジの方が5%ほど大きい‥‥という結果は出ましたが、5%では誤差です。少なくとも10%は差がないと、大きくないとダメです。理想は20%です。

 で、ここからは「思考実験」となりました。
 思考実験というのは実際の実験ではなく、「思考」だけの実験です。事実を積み上げ、思考を進め、一つの結論を導き出すという方法です。
 これは、ガリレオが、落体の法則を発見する際に使いました。思考実験の生みの親はガリレオと言われています。
 さらに、思考実験を多用したのがアインシュタインで、相対性理論の発見も思考実験からでした。

 私も偉人に見習っての思考実験です。
 とはいえ、偉人たちとは違い、コッチはゼツボー的に能力不足ですが、まあ、仕方がありません。

 あれこれと考えていくうちに、カートリッジ内の初期圧に想いが届きました。
 キャップ火薬が発火する直前のカートリッジ内の圧力は1気圧なのか? という想いでした。
 PFカートリッジもCPカートリッジも、ガス漏れは少ないです。ということは、マガズィンからチェンバーへとカートリッジが送り込まれたとき、カートリジ内の空気は圧縮されます。直ぐには抜けません。
 その初期圧は、どれも同じなのか? カートリッジによって差は無いのか?
 そこに、想いが届きました。

 初気圧が異なるということは、そこにある空気の量に差がある事になります。
 そして、キャップ火薬の発火時、カートリッジ内の温度は1500度から1700度まで上がります。すると、カートリッジ内の空気は膨張します。
 つまり、初期圧に差があると、ブロゥバックパワーに差が出ることになります。

 CPカートリッジとPFカートリッジとを比較すると、PFカートリッジの方がガスが漏れやすくなります。
 これは、カートリッジのネジ部分からの漏れではなく、ゴム製Oリングとキャップ火薬の違いです。密閉度の差です。
 CPカートリッジの方が密閉度が高く、空気が、ガスが漏れ難い構造です。

 初期圧が1気圧ではなく、1.5気圧や2気圧や3気圧‥‥ということは普通にあります。計算上は最大で5気圧まで上がります。
 そこまで思考を進めた段階で、その昔、モデルガンシューターから聞いた話を思い出しました。
 MGCが開発したシューターワンを利用してのシューティングを楽しんでいたファンの疑問でした。
 なぜか、スローファイアよりも、連射するラピッドファイアの方が、ブロゥバックの勢いが強いというのです。
 当時、私には原因が分かりませんでしたが、すごく気になったので、いつか解明したいと心に留めた一件です。
 ちなみに、その疑問をぶつけてきたのは、今でもエアガンシューターとして活躍している昆ちゃんです。

 ここで別の話もあります。CPカートリッジの密閉度の高さを知らしめる話です。
 KSCがモデルガンに付けている取説によると、不発があった際には、ブロゥバック用カートリッジを水に8時間(!)漬けて下さいと書かれています。間違いではありません。8時間です。
 それだけの時間、水につけないと危険というワケです。キャップ火薬を湿らせるのに8時間です。


 上記の情報から、初期圧の差がブロゥバックパワーの差を生む大きな要因ではないかと考えました。
 そこで、その仮定が正しいのかを調べます。
 方法は、キャップ火薬をカートリッジに詰めるとき、もしくはFピンを押し込むとき、ギリギリまで押し込みました。
 詳しく書くと、PFカートリッジではキャップ火薬の押し込みを浅くしました。CPカートリッジではFピンを深くしました。そのことで初期圧は1気圧になります。
 そうやって組んだカートリッジと、普通にキャップ火薬やFピンをセットしたカートリッジを用意し、撃ち比べです。明らかな差があるかの撃ち比べです。

 結果、ブロゥバックパワーに差がありました。

 これらの結果から、カートリッジによってブロゥバックパワーに差が生まれる大きな要因は、初期圧の差だと結論付けました。
 もちろん、他にも要因はありますが、最大の要因は初期圧差です。そして、その初期圧差は、キャップ火薬をガスシールドとして使うか、ゴム製Oリングを使うかの差です。厳密には、カートリッジ内径と、精度、汚れ具合も関係します。

 いつか、PFカートリッジで、ゴム製Oリングをガスシールドとしたカスタムカートリッジを使ってのブロゥバック実験を行ってみます。


モデルガンのブロゥバックパワー その⑤







Posted by mac-japan  at 07:00